世紀末的マリみて2

「アシュラマンになりたいなあ」
 静かな放課後のひとときに聖が発した、わけのわからん一言。
 それを聞いた祐巳は口に含んでいた紅茶を盛大に噴き出した。

「ゴホ! ゴホ! ゴホ!」
 咳き込み、気管支に盛大に流れ込んだ紅茶を吐き出す。本来安らぎを得る為の紅茶が今は呼吸を止めかねない凶器となっている。
「ははは、どうしたの? あわてて飲んだら危ないよ、祐巳ちゃん」
 爽やかな笑顔でそれを見つめるトラブルの根源こと佐藤聖、学校を揺るがすようなトラブルから一生徒の動揺までなんでもござれだ。
「せ……聖様がいきなりワケのわからないことを言うからじゃないですか」
 現在薔薇の館には聖様と祐巳の二人しかいない、どんなに呼吸がピンチだろうと突っ込みをしなければならない。
「ワケのわからないこと? あーアシュラマンねアシュラマン」
「そうですよ。なんでいきなりそんな名前が出てくるんですか」
「いやね、お茶を飲みながら姉妹関係の理想? そんな事を考えていたのよ」
「はあ」
 珍しい、姉妹関係ではドライとも言われる聖様がこんな事を改めて考えるとは。問題はアシュラマンと姉妹関係との接点が全く見出せない事だ。
「こんな話があるじゃない、片手だけつないで……姉と片手を、妹と片手を、そうして両腕を繋ぎあえる関係が理想だって」
 普通だ、どんな風変わりなことを言うのかと思って期待していたが余りに普通だ。でも、やはりアシュラマンと姉妹(略
「すごい正しい論理だよね、ソレ。やっぱ人は両手しかないんだから手を握る人物は二人でいいんだよ、ウン」
 うそ臭い、この人が二人だけでいいなんて事を言うことは余りにうそ臭すぎる、おもわず今日が四月一日で無いか確認してしまうほどに。ここまで来てもア シュラマン(略
「だからさ、思うんだよ。腕が六本あればいいんじゃないかって」
「はい!?」
「だから、腕が六本あればいいんだよ。そうすれば姉妹の他にも手を出せる余裕が生まれるじゃん」
 そうつなげましたか、しかも六本ってアンタ自分の姉妹の他に四人も手ェ出す気ですか。
「しかも他人の腕を奪えるって言うのがまた美味しい。とりあえず祥子の片腕奪えばさ、祐巳ちゃんを堂々と抱きしめられるワケよ」
 人から奪ったなんて呪いかかってそうな腕と手を繋ぎたくないんですが。というかいつの間にか抱きしめるに表現変わっているし。
「とりあえず当面の目標は祥子の片腕だね。なんかとちってくれれば腕奪う理由が成り立つんだけど、アイドル超人軍団に敗れるレベルの」
 なに後輩の失敗期待しているんですか、というかいつの間にか腕を奪う話に入っている時点でやっぱスゲエよこの人。
 今日に限って薔薇の館に誰も来ないのが恨めしい。誰かこの人を止めるの手伝って欲しい。祐巳は真摯に誰か来ることをマリア様に祈った。
 蓉子様にお姉様に志摩子さん、早く来てください。でも、煽りそうなデコチンと話に乗ってしまいそうな暴走特急と役にたたなそうなヘタレ、ぶっちゃけ黄薔 薇は来ないでもいいです。
「面白そうな話してるわね、聖? 」
 祐巳にはその声が聞こえた瞬間、マリア様に感謝した。
 来て欲しいと思った人物の中でも一番のツッコミ属性ともいえる蓉子様、しかも聖様を止める実力まで保持していると文句の付け所がない。やはりマリア様に 毎朝挨拶しているのは無駄ではなかったのだ。
「祥子から祐巳ちゃんと繋ぐ手をとりあげたら大変なことになるわよ。ドーピングコンソメスープ飲んだ至郎田シェフみたいに」
「よくわかんないけど末期的な状況になるのは凄い良くわかるよ」
 アレはなんというか推理とか料理とかそういう次元を斜め方向に飛び越えたと思う、それはさておいて。
「でもさ、私は祐巳ちゃんと手を繋ぎたいワケで。生まれた時は違えども死ぬ時は一緒って姉妹の契りならぬ桃園の誓いを契ったほどの仲だし」
 んな漢らしい誓い結んだ覚えありません、というか三兄弟で結ぶ物なんだから一人足らないし。
「ちなみにあと一人はイタリアで修行してるから」
 直ぐに確認が取れない人物を出すなんて用意周到ですね聖様。
 それを聞いた蓉子様はしばらく逡巡し、こう呟いた。
「でも駄目ね」
「何でさ!? 」
「だってかわいい妹が苦しむのが目に見えてるじゃない。姉としてそれはできないわ」
「えー……」
「しょうがないわね、聖は。だったらもう片方の手を持っていっていいわよ」
 もう片方の手、つまりは祥子様が姉と繋いでいる手=蓉子様と繋いでいる手だ。
 どさくさまぎれに蓉子×聖ラインを強める気だよこの人。つうかあんた妹見捨てる気ですか。
「もうあの娘は私の庇護なんか邪魔なだけよ。あとは祐巳ちゃん、貴方達次世代に託すわ」
 凄いカッコいいセリフなんだけど、やっていることは丸投げに等しいような気がする。まだ庇護とか必要ですって、遠い6月の季節に起こるアレとか省みる に。
 ……とりあえず帰りにこんなの寄越してくれたお礼にマリア像蹴っ飛ばそう、もう像ごと砕く勢いで。
「だから聖、悪いけどそれで我慢」
「ヤダ」
「してって……え? 」
「だって私が欲しいのは祐巳ちゃんであって、替わりに蓉子と手を繋いでも意味がないわけで」
「……」
 なんか蓉子様から怒り小宇宙があふれ出ている、まるで全てを焼き尽くすような怒り、例えるなら鳳凰のごとく。
「だからさ、蓉子は祥子としっかり手を繋いでいていいから祥子の祐巳ちゃん側の手を」

 豪快な土下座と表現すればいいのかなんというか、物凄く表現しにくい格好で聖様がKOされている。頭が床板にめり込んでいて、腕が逆さまに極まってい る辺りが技の破壊力示すポイントだろう。
「これが山百合会三大奥義がひとつ、紅薔薇に代々伝わるロサ・スパーク。これの修得が紅薔薇を継承する必須の条件よ」
 どこの武道派王家の継承条件ですかそれは、言うまでもなくもう二つはインフェルノとかリベンジャーですか。
「ちなみに祥子には50%しか伝えていないから。今度祐巳ちゃんに残りの50%を伝えるから、今度仲良く協力して100%のロサ・スパークにするように」
 知らないですよそんなの、素直に最初から100%教えておけばいいじゃないですか。
 てえかアンタ紅薔薇継承に必要な物を妹に50%しか教えていないのに孫に丸投げする気だったんですか。
 もうツッコミどころが多すぎて対処しきれない。むしろこの人が来てから状況が悪化したような気がする。とりあえず今の祐巳にできることは、
「し、失礼しました! 」
 KOされた聖様を置いて逃げ去ることだけだった。聖様も山百合会の白薔薇が一人、きっと直ぐに復活して反撃するだろう、そんな人任せの希望を託して。
「一週間後に選ばれし六人による山百合会紅薔薇争奪戦が開幕されるから修行しておくようにね」
 去り際に投げかけられた蓉子様の一言を聞こえないフリをして。

あとがき
スーパーロサギガンティアに志摩子に祐巳に蓉子に栞に静に加藤さん……この人六本腕があっても足りねえじゃん。

NOVEL